| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W17-2  (Workshop)

縞枯樹木の水利用の現状−衰退は気孔開閉に顕れているか−
Water use of subalpine conifers growing in wave regeneration -Does decline of trees change stomatal regulation of conifer needles?-

*宮沢良行(九州大学), 種子田春彦(東京大学・理), 杉浦大輔(名古屋大学・農)
*Yoshiyuki MIYAZAWA(Kyushu University), Haruhiko TANEDA(University of Tokyo), Daisuke SUGIURA(Nagoya University)

縞枯山は、シラビソやオオシラビソの枯死木と生存木からなる帯が斜面方向に縞状に並ぶ、独特の景観を持つ。枯死木帯から下方に向かうと、生存木帯に生きる稚樹、林内成木、そして枯死木帯に生きる高齢の衰退木へと至る推移がみられる。枯死木帯に近い個体では保有する葉は疎になり、葉のそぎ落とされた枝が目立つことから、吸水を担う根と水を消費する葉とをつなぐ、樹体内の水を輸送する経路に何らかの異変が発生しているのではないかと考えた。異変により水輸送能力が消費量に比べて脆弱となった個体はしばしば、光合成に伴う蒸散で消費される水を葉に十分供給できず、光合成もろとも蒸散を抑制することで水需給の不均衡を解消することが知られる。しかし縞枯山のような冷涼湿潤な環境の樹木について水需給の不均衡を調べた研究は少なく、不均衡の発生の実態-発生する環境条件や頻度、発生個体に特有の特徴など-の予想すら困難である。本研究では樹液流計測による蒸散の連続観測を各地点の樹木について実施し、その抑制の実態を調べた。稚樹や林内個体とは対照的に、衰退個体や枯死木帯に隣接して生きる個体では、葉への水輸送経路である道管が通る辺材にも樹液流の検出されない部位が多数検出され、個体あたりの蒸散量も低いなど、脆弱な水輸送能力が示唆された。いずれの地点の個体でも、蒸散速度は大気飽差とともに上昇するものの、比較的低い飽差で飽和することが明らかとなった。この結果は、春‐秋の晴天日中に日常的に観察される程度にまで飽差が上昇すると、樹木は葉外へのガス交換口(気孔)の通気性を下げて蒸散を抑制し、同時に気孔を介したCO2の葉内流入=光合成をも低下させていることを意味する。本研究により、縞枯付近に生きる樹木は、保有する葉が光合成で必要とする蒸散を十分に支える水輸送能力を持たず、衰退個体ではわずかとなった量の葉の光合成すら支えられない実態が明らかになった。


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