| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W19-3  (Workshop)

侵略的外来種スクミリンゴガイに対する法令による規制の経緯と今後
Legal regulations on an invasive alien apple snail Pomacea canaliculata: historical review and future perspective

*中井克樹(琵琶湖博物館)
*Katsuki NAKAI(Lake Biwa Museum)

 南米原産のスクミリンゴガイは、1980年代に「水田のエスカルゴ」や「山さざえ」という触れ込みで粗放的な養殖が各地で試みられたが、販路の拡大に失敗し放棄された個体が越冬可能な温暖地で定着し、水稲の幼苗への食害が西南日本を中心に顕在化した。
 スクミリンゴガイを含むリンゴガイ科貝類は植物防疫法の検疫有害動植物とされ、輸入等が禁止されていたが、養殖に失敗したスクミリンゴガイは「生きた除草剤」としての利用に注目され、新たな国内流通も始まった。そして2014年には、国内に蔓延し輸入禁止の必要性がなくなったと判断され、検疫有害動植物の指定から外れた。
 2004年、外来生物法の施行に合わせて始まった特定外来生物指定種の検討の際、スクミリンゴガイは植物防疫法での規制を理由に対象から外された。しかし、国内での流通や移動については、植物防疫法での規制が及ばず、効果的な抑制の手段として特定外来生物指定を検討すべきであった。
 地理的分布の拡大に伴いスクミリンゴガイの被害も広がり、滋賀県では2010年以降、琵琶湖の湖岸沿いに流出河川の瀬田川に至るまで分布範囲を急拡大し、暖冬明けの2020年には千葉県などと同様に農業被害も深刻化した。いわゆる水田雑草をはじめ水田生態系への影響も次第に明らかにされ、2015年に国が作成した「生態系被害防止外来種リスト」では「重点対策外来種」と評価されている。しかし、その一方で、有効利用の動きも継続し、新たな導入事例も確認されている。
 滋賀県では、このような利用を防ぐべく、2007年に「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」の規定する指定外来種にスクミリンゴガイを指定し、野外への放出を罰則付きで禁止した。水田という開放系では、生物の移動を適切に管理することはきわめて困難であり、有効利用への期待に促された分布拡大の抑止は喫緊の課題であり、既存の法制度として外来生物法の特定外来生物への指定を検討すべきであると考える。


日本生態学会