| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-01  (Oral presentation)

自然林におけるVOCsを介したブナの植物間コミュニケーション
VOCs mediated plant–plant communication in natural forests

*萩原幹花(京都大学農学研究科), 塩尻かおり(龍谷大学農学部), 陶山佳久(東北大学農学研究科), 松尾歩(東北大学農学研究科), 石原正恵(京都大学フィールド研)
*Tomika HAGIWARA(Kyoto Univ.), Kaori SHIOJIRI(Ryukoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Ayumi MATSUO(Tohoku Univ.), Masae Iwamoto ISHIHARA(Kyoto Univ. Field Science)

植物はイソプレンやテルペン類などの揮発性化学物質、つまり、匂いを放出している。近年、植物の匂いに関する研究が進展し、傷害や食害による葉の匂い受容すると、直接食害を受けていない植物の防衛力が向上するという「匂いを介した植物間コミュニケーション」が草本生態系や低木林等で明らかになってきた。発表者らの先行研究において、森林生態系の長期優占樹種ブナにおいても、匂いを介した植物間コミュニケーションが行われていることが明らかになった(Hagiwara & Shiojiri 2020; Hagiwara et al. 2021)。セージブラシを用いた近年の研究では、匂い放出個体と受容個体が近縁であるほど、匂い受容後の防衛力が向上することがわかっている。自然林は遺伝的近縁度の異なる個体群であり、そこには食害を与える様々な昆虫群集も存在するが、こうした自然林内における匂いを介した植物間コミュニケーションの意義は未解明である。そこで本研究では、自然林におけるブナの匂いを介した植物間コミュニケーションの実態を明らかにし、近縁度による匂いへの反応性の差異を明らかにすることを目的とした。東北大学川渡フィールドセンター内にあるブナの自然林において、展葉直後に1個体の90%の葉を半分に切除し、匂い放出個体とした。そしてその周辺のブナ個体126本のDNAを解析し、近縁度を求めた。匂い受容3日後に防衛に関わる植物ホルモンの蓄積量を定量し、4カ月後の葉の被害を植食性昆虫による被害、病原菌による被害に分け定量した。この結果、植食性昆虫による被害、病原菌による被害共に、匂い放出個体から距離が近い個体の葉の被害は少なく、距離が離れるにつれて葉の被害が多くなった。植食性昆虫による被害は、匂い放出個体と近縁であるほど少なくなった。さらにその他操作実験による結果を併せ、自然林におけるブナの匂いを介した植物間コミュニケーションの実態を考察する。


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