| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-04 (Oral presentation)
昆虫の訪花は、陸上生態系において昆虫と植物との相互作用を支えている。昆虫は、特定の花に選択的に訪花する。しかし昆虫がどのような機構で花を認識し、選択しているのかはよくわかっていない。東南〜南アジア付近に広く分布するカザリショウジョウバエのメスは開花中の花に産卵し、幼虫は落花を食べて成長する。またオスは花にテリトリーを作ってメスを待ち、交配する。本種は遺伝学や神経科学のモデル生物であるキイロショウジョウバエと近縁であり、全ゲノム情報が公開され、ゲノム編集が可能であることから、昆虫の訪花行動の神経機構を明らかにする良いモデルである。一方、野外において彼らがどんな花をどのように選ぶのかはほぼ調べられていない。
野外における本種の訪花選好性と繁殖選好性を調べると、彼らは野外において特定の花に選択的に訪花、繁殖していた。採取した卵から生まれた幼虫に花を与えて育てると、野外で繁殖率の高い花では羽化率が高いが、低い花では羽化率が低かった。このことから、本種には餌に適した花を識別する必要性があることがわかった。次に、彼らがどの感覚で花を認識しているのかを調べるために、ハエの感覚を制限し、訪花行動への影響を調べた。嗅覚を制限した場合、訪花頻度はほとんど変わらなかったが、視覚を制限した場合、訪花頻度は著しく低下した。さらに彼らは布製の造花や樹脂製の3Dモデルへも訪花した。このことから、彼らの花の認識には匂いは必要ではなく、視覚情報が重要であることがわかった。では野外における彼らの訪花選好性は、視覚的な特徴と関連するのだろうか?特に花の色との関係を調べるために、ハエの色覚を模したカメラやスペクトルメーターを用いて、“ハエから見た”花の色と訪花頻度の関係を調べた。その結果、花の波長特性やパターンはいずれも訪花頻度と一致しなかった。このことから、彼らは色の類似性以外の機構で花を選んでいると推測される。