| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-05  (Oral presentation)

持ち運ぶ花粉の種組成から見た送粉者としての訪花昆虫の評価
Evaluation of Flower Visiting Insects as Pollinators from the Perspective of Species Composition of Pollen Load

*寺田昂平, 大橋一晴(筑波大学)
*Kohei TERADA, Kazuharu OHASHI(University of Tsukuba)

従来、訪花者の植物の繁殖に対する貢献度(送粉者としての質)は、同種花粉を運ぶ量や運搬効率などで評価されてきた。しかし近年、彼らが複数種の花を移動することで起こる異種花粉の授受も、植物の繁殖への悪影響を通じて、送粉者としての質に大きく影響する可能性が指摘されている。では、異種花粉を持ち込む可能性、という観点から評価した送粉者としての質は、行動習性や形態が異なる訪花者の間で、どのようにちがっているだろうか?この疑問に答えられる定量的なデータは、今のところほとんどない。というのも、訪花者の体表に付着した異種花粉の量や割合を調べた従来の研究は、ハナバチなど一部の分類群を対象にしていることが多く、多種多様な訪花者間でおこなわれた定量的な比較がほぼ皆無だからである。本研究では、茨城県筑波山麓でイボタノキを訪花するさまざまな昆虫を採集し、異なる昆虫群間における体表花粉の定量的比較を試みた。採集した昆虫は、形態や習性のちがいにもとづき、11グループ(コマルハナバチ雌・雄、ヒメハナバチ科、その他のハナバチ類、カリバチ類、コアオハナムグリ、その他の甲虫類、ハナアブ科、その他のハエ類、チョウ類、ガ類)に分け、体表花粉をショ糖溶液で洗い落とし、液中に含まれる花粉を顕微鏡下で同定・計数した。結果にもとづき、グループ間で体表異種花粉率、花粉の種組成の類似度(nMDSを使用)および種多様性(多様度指数としての種数と均等度)を比較した。その結果、系統的に遠い昆虫間だけでなく、送受粉への影響が似通っているグループとしてまとめられることの多い近縁種間や、同種の雌雄間でさえ、花に異種花粉を持ち込む可能性がしばしば異なることが示唆された。これは、動物の大まかな分類群や外見にもとづく従来の「機能群」の中には、花におよぼす進化的な影響が大きく異なる送粉者が混在している可能性を示唆する、興味深い知見である。


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