| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-07 (Oral presentation)
昆虫に花粉の運搬を委ねる植物にとって、昆虫の行動は植物の雌成功度(種子生産)を決定するだけでなく、花粉散布を通して雄成功度(花粉親となった種子数)や個体群の遺伝構造にも影響を与える。早春は気温が低く昆虫の出現予測が困難であるため、雪解け直後に開花する植物は、昼夜含め多様な昆虫に送粉を委ねる戦略をとっていると予測される。本研究では、早春に開花する林床低木ジンチョウゲ科ナニワズについて結実率と花粉散布距離を昼夜間で比較し、昼夜の送粉昆虫の貢献度を明らかにすることを目的とした。
北海道のナニワズ自然個体群(約100m×100m)において2年間の野外調査を行なった。調査では訪花昆虫の観察と一花あたりの開花期間を調べた。昼のみ袋を外す花序(昼開放花序)と夜のみ袋を外す花序(夜開放花序)を作り、結実率と種子の花粉親を昼夜分けて評価した。実った種子について16遺伝子座のマイクロサテライト遺伝マーカーを用いて花粉親を推定した。
夜には夜行性の蛾、昼にはオオマルハナバチ、チョウ、ビロードツリアブ、昼行性の蛾など、多様な訪花昆虫が観察された。一つの花の開花は約3週間にわたり続いた。結実率は年度間で異なり、一年目のみ夜開放花序の方が高い傾向が見られた。花粉散布距離は、昼開放花序で平均6.8 m、夜開放花序で平均4.4 mと短かったが、最長距離は昼開放花序で52.5 m、夜開放花序で41.5 mであった。花粉散布距離と花粉親多様度は、袋がけ処理間で差は検出されなかった。これらのことから、ナニワズは3週間にわたり開花し、昼夜を通して多様な昆虫に送粉されることで送粉成功を維持しているといえる。