| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-09 (Oral presentation)
種間で起こる花粉移動を回避するため、植物はどんな性質を進化させてきただろうか?演者らはメタ解析 で「突出した柱頭ほど付着花粉に含まれる異種の割合が高い」傾向を見つけた(第68回大会)。そこで今回は、この傾向が生じるメカニズムとして「長い柱頭は送粉者の体表の広範囲に触れるため異種花粉を拾いやすい」という仮説を検証した。まず、柱頭の長さが送粉者の体表に触れる範囲におよぼす影響を調べるため、柱頭の長さを操作した2タイプのアベリアの花(柱頭に異なる色の蛍光粉末を塗布)をケージ内に交互に並べてトラマルハナバチに訪花させ、体表部位ごとに付着した粉末数を数えた。すると予測通り、長い柱頭はハチの体表部位のより広範囲に触れる傾向があった。次に、接触範囲のちがいが異種花粉率に差を生じるかどうかを調べるため、以下の手順でコンピューター・シミュレーションをおこなった:(1) 実験で得た蛍光粉末数の比を各体表部位への接触率とみなした;(2) 送粉者の各体表部位における花粉の種組成データを、イボタノキに訪花するコマルハナバチ(つくば市神郡)と、3種のシオガマギクに訪花するマルハナバチ(Huang & Shi 2013)から得た;(3) (1)と(2)を基に、蛍光粉末を数えたハチの中から任意の10個体が訪れたとき、長さの異なる柱頭に付着する花粉の種組成を推定する試行を100回くり返した。その結果、イボタノキで採集したハチの体表花粉データを用いた場合は、長さの異なる柱頭間で付着花粉の種多様度に差はなかった。一方、動物の異なる体表部位を送受粉に用いて異種間交雑を避ける3種のシオガマギクで採集したハチの体表花粉データを用いた場合は、長い柱頭上の花粉の種多様度が有意に高かった。この結果は、動物の異なる体表部位を送受粉に用いる植物の群集においては、短い柱頭が異種花粉の受け取りを減らす戦略となり得ることを示す。