| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-10  (Oral presentation)

トレードオフ緩和:花形質の組合せがもたらす多様な訪花動物への同時適応
Trade-off mitigation: floral adaptation to diverse visitors through evolution of trait combinations

*大橋一晴(筑波大学), Andreas JÜRGENS(TU Darmstadt), James D THOMSON(Univ. of Toronto)
*Kazuharu OHASHI(Univ. of Tsukuba), Andreas JÜRGENS(TU Darmstadt), James D THOMSON(Univ. of Toronto)

自然界の多くの花は、特定の動物による送受粉への適応の結果、それぞれに特徴的な表現型をもつに至ったと考えられてきた。しかし実際の花を観察してみると、じつに多種多様な動物が訪れていることが多い。この観測事実は、花は複数の動物に同時適応できないはず、というトレードオフの前提に矛盾する。多様な訪問者を受け入れる花が、生態型、亜種、近縁種間で異なる形質の組合せを維持しているのは、一体どのようなしくみによるのだろう?演者らは、分断淘汰をもたらすほどの強いトレードオフが、特定の動物が独占的に訪れる花でしか報告されていない事実をヒントに「花はトレードオフを進化的に緩和することにより、異なる訪花動物に同時適応することができる」という仮説を提唱した。今回の講演では、トレードオフを緩和する戦略の例として、花色変化(報酬を出さなくなった古い花の色を変えて維持する性質)の進化プロセスを、グラフィカル・モデルを用いて検討する。このモデルでとくに注目すべきは、花色変化を特徴づける古い花の維持と色変化という形質の組合せが、日和見的な採餌をおこなう送粉者と経験にもとづく採餌をおこなう送粉者への同時適応の結果として生じる点である。訪花動物を介したトレードオフの緩和がこうしたプロセスで実現されるのが一般的だとすれば、さまざまな分類群でくり返し進化した花の特徴的な表現型(送粉シンドローム)は、特定の訪花動物に対する適応的特殊化だけでなく、特定の訪花動物群集に対する「適応的一般化」の結果としても生じ得ることになる。このように、花の進化をめぐる理論と観察の矛盾は、トレードオフ緩和の可能性を考慮に入れ、訪れるすべての動物がもたらす自然淘汰の帰結として花の表現型をとらえ直すことで、解決できるのかもしれない。今後は、トレードオフ緩和をもたらす花形質の組合せの探索と、訪花動物の行動を介した緩和メカニズムの解明が望まれる。


日本生態学会