| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-11 (Oral presentation)
ハナバチやチョウなどの訪花昆虫は、色や形が共通した同種の花を連続的に訪れる「定花性」をもつことが知られている。定花性は、異なる植物種間の交雑機会をさまたげる行動として、古くから注目されてきた。しかし、従来の知見は条件を均質化した実験で得られたものが多く、野外で起こる定花性が、さまざまな環境要因にどのような影響を受けるかについては、よくわかっていない。とりわけ、植物はしばしばパッチ状に生育し、種や群集によってその大きさもまちまちである。また動物も、花から花へと移動する際、近接する花を選ぶ習性をもつ。こうした点を考えると、野外で起こる定花性の強さは、花の形質ばかりでなく、群集内の植物種の空間分布の影響を強く受けて変化する可能性がある。そこで本研究では、クロマルハナバチを用いた室内実験で、2種の異なる色の花の空間分布を変えたとき、定花性がどのように変化するかを明らかにした。実験では、30%ショ糖水溶液を含む2種の人工花(黄・青)が交互に並んだ「混合分布」、同種の花4個からなる小さなパッチが交互に並んだ「低集中分布」、そして同種の花20個からなる大きなパッチが交互に並んだ「高集中分布」という2種類の空間分布を用意した。またそれぞれの空間分布において、花間距離が短い条件(3.5 cm)と長い条件(20 cm)を用意した。これら合計6種類の実験条件において、クロマルハナバチの訪花順序を記録した。その結果、花間距離に関わらず、同種の集中度合いが高い分布ほど、ハチはより顕著な定花性を示した。この結果は、定花性にともなう移動コストの低下、あるいは同種間飛行の長期化にともなう切替の認知コスト増大によるものと考えられる。講演では、実際の行動データに基づいてこれら2種類のコストを推定し、いずれのコストがよりよく定花性の変化を説明できるかを検討したい。