| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-02 (Oral presentation)
一般にクモは様々な獲物を捕食するが, 一部の種は特定の獲物を専門に捕食する. 獲物の中でもアリは攻撃的で危険であるため, クモにとって適切な獲物ではない. しかし, ミジングモ亜科はアリを専門に捕食する. 現在, 世界で300種ほどが知られているが, その生活史や生態はほとんど分かっていない. また, ミジングモはアリの化学物質を手掛かりに採餌場所を選択していると考えられてきたが, それを検証した研究はない. そこで本研究では, ミジングモの採餌戦略を明らかにするために, (1)食性調査, (2)捕獲行動の撮影及び(3)採餌場所選択の手掛かりの検証を行った.
(1)福岡県2地点において, 本亜科3属4種が捕食しているアリの種構成を調べたところ, Phycosoma属の2種はどちらも5種のアリを捕食していたが, Dipoena属及びLasaeola属の2種はトビイロケアリのみを捕食していた. また, Phycosoma属の2種とDipoena属の1種は一度に複数のアリを捕らえ, Lasaeola属の1種は一度に1匹のアリを捕らえる傾向があった.
(2)本亜科5属7種において, 野外及び室内で捕獲行動をカメラで撮影した. 捕獲行動は, アリに粘性糸を投げつける「糸投げつけ型」と脚先にかみつく「かみつき型」の2タイプに分けることができた. 前者は Dipoena, Euryopis 及び Phycosoma 属に, 後者は Lasaeola と Yaginumena 属に確認できた.
(3)採餌場所選択の手掛かりを検証するために, 本亜科2属2種を用いて, 実験を行った. 実験では, トビイロケアリの化学物質をろ紙に付着させ, クモが処理ろ紙と未処理ろ紙どちらへ移動したかを記録した. 2種ともに処理ろ紙側へ有意に移動した.
(1)(2)より, 糸投げつけ型はエネルギーを糸に投資し比較的小型のアリを複数捕らえる戦略であり, かみつき型はエネルギーを毒に投資し比較的大型のアリを1匹捕らえる戦略ではないかと考えられる. (3)より, ミジングモはアリの化学物質を手掛かりに採餌場所を選択していることが示唆された. 以上よりミジングモの採餌戦略について考察する.