| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-04 (Oral presentation)
生物が発する音響の観測(受動音響観測)は、視界の利かない環境下や遠隔地からの長時間かつ非侵襲の生物観測を可能にする。これまで受動音響観測データを利用することで、生物の行動やその環境応答を評価する試みがなされてきたが、環境要因との相関に基づくデータ解析では因果関係を結論づけることが困難であるという課題があった。本研究では、受動音響観測データに対して非線形時系列解析を適用することで、観測された音響が、環境要因から受ける影響(因果関係)を評価することを目的とした。大阪湾・関西空港沖において、3000時間にわたる受動音響観測を行なったところ、日周期性と季節性を持つ一時間あたり最大約6000回程度のパルス音が観測された。この天ぷらを揚げている時のような独特のパルス音は、しばしば「frying noise(テンプラノイズ)」と呼ばれ、テッポウエビ類がハサミを急激に閉じることで生じると言われている。同地点で観測された複数の環境因子(水温、塩分、光量、DO、濁度、クロロフィルa濃度、流速)がこのパルス音頻度に及ぼす影響を、非線形時系列解析を用いて検証した。その結果、水温やDOがパルス音頻度に対して時期によって異なる影響を及ぼしていることが示された。これは、パルス音源が温度や酸素、クロロフィルa濃度といった環境要因から影響を受け、更にその反応も時期依存的である事を示唆している。過去のテッポウエビの研究と照らし合わせてその生態と合致するような特徴は見られなかったものの、このようなテンプラノイズの音源が、環境に対して状況依存的な反応を示す特徴を持つことが明らかとなった。長期にわたる高い時間解像度の長期時系列データを提供できる受動音響観測と時系列解析を併用する事で、環境が生物の行動に及ぼす影響を網羅的に検証する発見的アプローチが可能であることを本研究は示唆している。