| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-05 (Oral presentation)
一部の海洋動物では生息域に雌雄差が見られるが、メカニズムの多くは未解明である。三陸沿岸部に夏季のみ来遊するアカウミガメ(Caretta caretta)の成体サイズの個体は、ほとんどがオスである。この理由として、成体オスは春に交尾を済ませるとすみやかに低緯度に位置する繁殖場を離れて採餌場に向かうため、三陸沿岸部のような夏季限定で利用可能な高緯度海域にも進出し採餌ができると考えられる。一方、夏まで産卵を行う成体メスは、夏以降に水温が低下する高緯度海域に進出できない可能性がある。上記を検証するために、本研究ではまず、三陸沿岸部に来遊する成体オスの移動経路と経験水温を長期間追跡した。
2007年から2017年の夏の間、三陸沿岸部で混獲されたアカウミガメの性別を、標準直甲長に対する尾の長さの比を示す相対的尾長と、血中テストステロン濃度から判定した。オスと判定された個体のうち、標準直甲長が80cm以上であった7個体を成体オスとみなし、人工衛星対応型電波発信器を装着して岩手県大槌町付近から放流し、その後の移動経路と水温を追跡した。
1個体あたりの平均追跡日数は369±136(範囲: 200–557)日、平均経験水温は20.6±1.6(範囲: 18.6–23.0)ºCであった。成体オスは夏に放流されたあと、秋から冬の水温低下にともなって南下し低水温を避け、沖合に移動した。その後、交尾期である翌年の3月から4月には、半数以上の4個体が産卵場付近に滞在した。さらに、産卵期である5月から8月には、産卵場に滞在しなかった個体も含めた全個体が、産卵場のない北緯35度以上の海域に移動した。この結果は、オスはメスに比べて繁殖期が早く終了するため、水温低下の制約を受けずにより高緯度域に進出できるという仮説を支持した。