| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-06 (Oral presentation)
多くの動物は繁殖や採餌のための回遊(渡り)を行う。一般に、回遊中の生存率は低く、小さい体サイズの個体ほど死にやすいことから、回遊開始までに「危険回避できるサイズに達するための成長戦術」が存在すべきである。先行研究では、多くの回遊する動物がこのような回遊前の成長戦術として捉えられる成長様式を保持することを示してきたが、その背景にある行動メカニズムはわかっていない。最近、私達はサケ科魚類サクラマスにおいて海洋回遊の開始までに「危険回避できるサイズに達するための成長戦術」として解釈できる成長様式を発見した。具体的には、「降河前の時点で小さいサイズの個体ほど(河川に長く滞在することで)海洋回遊の開始までの成長量が大きい」というものである。このサクラマスの河川における滞在期間(成長期間)のサイズ依存性はどんな行動メカニズムにより実現したのだろうか?小さい個体ほど河川における成長期間が長いのは「仮説①:降河行動をとり始める前の生息場所に留まる期間が長い」または「仮説②:降河行動をとり始めてから海洋回遊を始めるまでの期間(降河に要する期間)が長い」によると考えられる。本研究では、幌内川においてサクラマスをPITタグで個体識別し、PITタグ探知機によって降河行動の開始タイミングやその後の移動を追跡することで仮説の検証に取り組んだ。
研究の結果、仮説①のみが支持された。つまり、小さいサクラマスほど降河に要する期間を長くとっていたことが明らかとなった。さらに、降河中サクラマスの移動様式を調べた結果、小さいサクラマスは上流域ではなく、下流域に長く滞在していたことがわかった。実際、下流域は大きい淵が点在することから、上流域より成長に適していると考えられる。回遊開始までに「危険回避できるサイズに達するための成長戦術」は、回遊本番に至るまでの間に成長に適した場所を利用して実現したのかもしれない。