| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-07  (Oral presentation)

随意的なアリ随伴性シジミチョウは天敵のいない侵入先で防衛共生のコストを削減する
A facultative myrmecophilous butterfly reduces symbiotic costs in a newly expanded enemy-free area

*中林ゆい(京都府立大学), 大島一正(京都府立大学, 新自然史センター)
*Yui NAKABAYASHI(Kyoto Prefectural Univ.), Issei OHSHIMA(Kyoto Prefectural Univ., Center for Natural History)

生物は防衛や繁殖のために種ごとに様々な種間関係を構築しており,その維持に多大なコストがかかっている.仮に,生息環境の崩壊や分散などによりある生物種がこれまでとは異なる環境に遭遇した場合,種間関係への依存度を柔軟に調節できれば,種間関係への投資を不適な環境下における発育や繁殖に配分できるだろう.そのため,種間関係の強度を調節できる個体の存在は,新たな環境下での個体群の存続につながる可能性がある.蜜を報酬にアリに天敵を排除させる防衛共生は,効果的な防衛手段だが,コストも生じるため,天敵がいない環境では無駄になる.ムラサキシジミ(鱗翅目:シジミチョウ科)は,幼虫期に様々なアリ種と随意的に共生関係を持ちながら,現在分布を北へと拡大している.従来からの分布域である西日本では,幼虫期にコマユバチ科寄生蜂の1種に高頻度で寄生されているが,現在の分布北限付近である宮城県仙台市では寄生者が一切得られない.そこで本研究では,仙台集団がアリとの共生関係の強度を弱め,その分を幼虫期の発育に投資しているかを野外観察と室内実験により検証した.アリ随伴率は,仙台の野外集団では従来の分布域の集団よりも有意に低く,ムラサキシジミ幼虫にトビイロケアリ(以下,ケアリ)を提示した室内実験でも,仙台集団は従来の分布域の集団よりも単位時間内にケアリを随伴できた個体の割合が有意に少なかった.さらに,ムラサキシジミ幼虫をケアリと一緒に飼育した結果,両集団ともにケアリと一緒に飼育しなかった個体よりも有意に発育期間が延長した.以上の結果より,アリ随伴はムラサキシジミ幼虫の発育に負の影響を与えるため,寄生者のいない仙台では,「アリとの共生関係を解消し,アリ随伴に必要なコストを発育に投資できる」という形質を持つ個体が有利となり,侵入先での個体数維持に寄与していることが示唆された.


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