| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-08 (Oral presentation)
近年、都市化によって⽣物の⽣息地の⽣物的、非生物的な環境が急速に変化している。このような環境変化が⽣物の種数や個体数に与える影響は数多くの研究で指摘されているものの、それらの背景にあるメカニズムは充分にわかっていない。一方、都市では夜間の人工光により、表現型レベルの変化が起きると指摘されている。個体の表現型は個体群動態に影響するため、表現型の変化を調べることは、各生物種の都市における生態的帰結の理解に貢献するはずである。そこで本研究では、果樹害⾍のオウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)を⽤いて、個体群過程に影響を与えうる表現型の進化的、可塑的変化を検証することを⽬的とした。都市部と郊外部の各4地点で捕獲した複数の雌から確立した単雌系統を用いて、夜間の微弱な人工光が成虫の活動パターンや体サイズ、求愛活性、卵サイズ、産卵数に与える影響を調べた。その結果、成虫の体サイズは夜間照明により減少したが、その影響は都市由来の個体でより小さかった。夜間照明により活動パターンは夜間に偏った。また、活動量は夜間照明によって低下したが、その差は都市由来の個体でより小さかった。オスの求愛活性は、郊外個体より都市個体で高く、いずれの集団でも夜間照明により低下した。卵サイズについては夜間照明の影響や都市化度の影響はみられなかった。産卵数は夜間照明により有意に増加したものの、その差は都市個体ではより小さかった。これらの結果から、夜間照明は、本種の個体群動態に関わりうるさまざまな形質に影響することがわかった。また、都市では夜間照明の影響を軽減する迅速な対抗進化が起きていることも示唆された。都市化に伴った急速な環境変化は、遺伝的にも非遺伝的にも生物の形質に多面的な影響を与えることで、各生物種の都市における生態的帰結を決定づけている可能性がある。