| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-09 (Oral presentation)
多くの動物は個体の集合から成り立つ群れや社会を形成し、集団行動を示す。魚類に見られる統率の取れた群れ行動や、一部の真社会性昆虫に見られる社会的分業などは、個体レベルの行動の単純な総和や平均とは異なるという意味で創発的な特性といえる。動物行動学の分野では以前より、集団行動を可能にする個体の行動原理やパラメータが数理モデリングをはじめとする手法によって明らかにされてきた。他方で、近年のゲノム・表現型データの蓄積と集団遺伝学的解析の発展から、個体レベルの行動多様性の遺伝基盤が徐々に明らかとなっているが、個体と集団の行動との関係性をゲノムレベルで検証した研究は存在しない。上述の通り、個体の行動は他個体との相互作用を介して集団や群れ全体に影響を与えるため、行動の遺伝基盤には集団レベルの機能に関わるもの、すなわち集団行動の遺伝基盤も存在すると考えられる。これまで個体レベルの表現型に限られてきた遺伝学的解析を集団レベルに拡張することで、集団行動という高次現象のメカニズムを分子レベルで記述できるだけでなく、その進化過程を詳細に理解できると期待される。そこで本研究では、モデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の集団行動に着目し、ゲノム配列が既知の近交系104系統を実験に用いて、単独時および集団における行動形質(活動性や探索傾向、社会性および恐怖刺激に対する反応)を定量した。また、ゲノムワイド関連解析により、これらの各形質に関わる遺伝的変異を検出した。さらに、活動性および恐怖反応に関しては、単独時と集団時の行動形質の差分を集団の形成による創発効果と定義し、同様にゲノムワイド関連解析を行なうことで創発効果のゲノム基盤を検証した。