| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-12 (Oral presentation)
ニホンウナギ(以下ウナギと呼称)は水産的価値が高い種であるにも関わらず、稚魚期の被食実態がほとんど分かっていない。そこで本研究では、潜在的捕食者及び相対的捕食圧を測定するために、本種稚魚を糸に繋留してフィールドに設置するテザリング実験を行った。
実験は2021年の9~10月に長崎県長崎市の浦上川中流域にて実施した。直線距離400mの間の8地点(23~118m間隔)を繋留場所に設定した。実験には、計48個体のウナギ稚魚(全長66±7mm)を使用した。1回の実験で4地点に1個体ずつウナギを設置し、そのうちの1個体を暗視ビデオカメラで撮影した。この試行を昼夜に6回ずつ繰り返し行った。実験で得られたデータから、基質(砂、礫)、時間帯(昼、夜)、水深、水温、ウナギの全長が被食に及ぼす影響をロジスティック回帰分析によって調べた。
水中ビデオカメラの映像を分析したところ、夜間の6回の撮影の内、2回で繋留したウナギがテナガエビに捕食される様子が確認された。また、昼間の6回の撮影の内、カワムツに1回、ハゼ類に1回攻撃される様子が確認された。ロジスティック回帰分析では基質と時間帯の交互作用に有意な効果があり、昼間では砂の基質の方で被食率が高く、夜間では礫の基質の方で被食率が高かった(p‹0.05)。その他の要因については有意な影響は見られなかった。
昼夜で捕食され易い基質が異なった原因については次の2点が考えられる。
① 夜行性の捕食者であるテナガエビが礫を好むため、夜間に礫の基質で捕食圧が高くなったこと
② 砂の基質では、ウナギ稚魚が隠れることができず、昼行性の捕食者であるカワムツやハゼ類に攻撃されるため、夜間よりも昼間の捕食圧が高くなったこと
テザリング実験では対象種を糸に繋留するため、捕食者との遭遇率は定量化できるが、遭遇後の被食率が高く見積もられる。そのため、今後、本成果を踏まえた水槽実験などによって遭遇後の被食率を定量化する必要がある。