| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-13  (Oral presentation)

可携巣を持つトビケラ目幼虫がとる肉食性水生昆虫に対する捕食回避戦略に関する研究
Trichoptera larval case as strategy against predation by carnivorous aquatic insect

*飯島稜輔, 河内香織(近畿大学)
*Ryosuke IIJIMA, Kaori KOCHI(Kindai Univ.)

幼虫期を水中で生活するトビケラ類は、多くの種が材料や形状の異なる携帯型の巣(可携巣)を持つことで知られている。可携巣は捕食防御の役割をもち、捕食の危機に瀕した際には巣の中へ体を隠すことで捕食を免れるとされている。しかし、材料が落葉を主とした有機物で作製された可携巣は捕食者から物理的に破壊されうると考えられ、幼虫は可携巣の中へ隠れる以外に、捕食を防ぐための様々な行動を行うと仮説を立てた。そこで、材料、形状の異なる可携巣を持つトビケラと、捕食者として考えうる肉食水生昆虫を飼育し、捕食に対するトビケラの行動を観察した。
実験に用いたトビケラ類は、ホタルトビケラ(以下ホタル)、ツダカクツツトビケラ(以下ツダ)、コバントビケラ(以下コバン)であり、それぞれ形状、材料が異なる可携巣を作製する。肉食水生昆虫はヘビトンボ類、トンボ類、カワゲラ類など同所的に生息する種を使用した。水槽内にトビケラと捕食者を1個体ずつ入れ、ビデオカメラによって撮影し、行動を観察した。
実験の結果、各トビケラが捕食の危機に瀕した際、砂で筒巣を作製するホタルは、巣の中隠れる行動のみが確認された。また、捕食者に巣の入り口から侵入される事例が確認されたが捕食はされなかった。これは、ホタルがキチン質でできた頭部を利用し、ふたをして侵入を防いでいるためと考えられた。小さな落葉片を使った筒巣を持つツダは、ホタルのように巣の中へ身を隠したが、ヘビトンボのように強靭なあごを持つ捕食者によって、巣ごと破壊、捕食されることが多かった。落葉を丸く2枚切り取り巣を作製するコバンも同様に、多くが巣の中へ身を隠したが、幼虫自身が巣から離れ捕食者と距離をとる行動が数回確認された。この行動の理由として、他の2種が成長に伴い、巣を継ぎ足し伸長させていくのに対し、コバンは、成長に合わせた巣を新たに作成するため、巣に対して執着がないことが考えられた。


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