| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-450  (Poster presentation)

ヤクシカ糞中の植物DNA分析:高木由来の餌を主食し副食効果で林床植物を減らす
Plant DNA analysis in feces of Cervus nippon yakushimae: Deer feed on tall trees as a staple food and reduce understory plants by side dish effect

*東悠斗(九州大学), 廣田峻(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 矢原徹一(QOU)
*Yuto HIGASHI(Kyushu Univ.), Shun K HIROTA(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Tetsukazu YAHARA(Kyushu Open University)

草食動物の餌の種構成は、糞の植物DNA解析により調べることができる。本研究では、屋久島で個体数を増やし、下層植生に大きな影響を与えているヤクシカ Cervus nippon yakushimaeに本手法を適用することで、これまで困難だったヤクシカ食性の定量的把握を行った。2018年4月、6月、8月、10月に野外で採取した糞に残存する植物の葉緑体DNA断片(rbcL領域)を次世代シーケンサーで配列決定し、ヤクシカの餌植物を同定した。捕獲によって個体数が管理されている2地域と、個体数が管理されていない3地域で糞をサンプリングした。5地域における餌植物の上位2分類群はブナ科、アコウ、タブノキ属、ユズリハ属、スギ、ハリギリであり、すべて高木だった(ハリギリのみ落葉、他は常緑)。したがって、ヤクシカの主要な餌は、高木由来の資源である。これら6分類群のリード量の相対割合は季節的に変動し、この変動は葉や果実の落下量の変動と関係していると考えられた。上位3~15位の分類群を比較すると高木に加え、シダ類を含む下層草本植物がすべてのエリアで含まれていた。したがって、ヤクシカは常緑高木を主食としながら、一方で草本植物を副食として採食している。この副食効果により、下層植生が減少していると考えられる。したがって、下層植物を回復させるためには、シカの密度を下げるか、柵による植生保護が必要である。また、餌植物の多様性は個体数の管理地域の方が非管理地域よりも高かった。この結果は、管理地域では下層植生の多様性が高いことを示唆している。


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