| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-451  (Poster presentation)

自然環境下における人間の存在が中型食肉類の日周活動と生息地選択に及ぼす影響
Effects of human presence in natural environments on diel activity and habitat utilization of mesocarnivores

*森川周, 谷川鴻介, 平尾聡秀(東京大学)
*Shu MORIKAWA, Kohsuke TANIGAWA, Toshihihde HIRAO(Tokyo Univ.)

捕食者が被食者に与える効果には、捕食によって被食者の個体数が減少する直接的な効果以外に、その存在を被食者が「恐怖」することによる間接的な効果がある。恐怖は採餌行動の減少などを通して被食者の適応度を低下させ、その個体群動態に影響を及ぼすと考えられている。こうした恐怖による影響は人間活動によっても引き起こされる可能性がある。特に近年は、オーバーツーリズムや獣害問題など人間と野生動物の間の軋轢が大きな問題となっており、人間の恐怖による影響を明らかにする必要性は大きい。そこで、本研究では、森林に生息する中型食肉目に着目し、①人間活動がその時空間的な活動に影響を及ぼすか、②人間の存在を認識した場合、警戒行動や採餌行動を変化させるか、の2点について検証を行った。
本研究では、奥秩父山地の冷温帯落葉広葉樹林において野外調査と野外実験を行った。まず野外調査では、荒川源流域(約23 ㎢)において、2018年10月~翌年9月の期間に64台のカメラトラップを設置した。得られた人間および中型食肉類(ニホンアナグマ、ホンドキツネ、ホンドタヌキ、ホンドテン、ハクビシン)の写真データを用いて、日周活動パターンの解析とサイト占有モデルによる解析を行った結果、一部の中型食肉類の日周活動パターンとサイト占有率が人間活動によって変化していること、その変化には季節変動があることが示された。また野外実験では、半径50m程度の実験区と対照区を設定し、実験区では2022年1月~2月に人間の会話音声を放送した。カメラトラップで動画撮影されたホンドテンの採餌時間について解析を行った結果、実験区において採餌時間が有意に短くなることが示された。
以上の結果より、中型食肉類の一部の種は人間活動を捕食リスクとして認識し、時空間的な活動の変化や行動の変化によってリスクへと対応していることが示唆された。


日本生態学会