| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-458  (Poster presentation)

九州南部のブナの衰退と土壌侵食との関係性
Relationship between beech decline and soil erosion in southern Kyushu

*阿部隼人(九州大学), 小山田未森(九州大学), 久米朋宣(九州大学), 兵藤不二夫(岡山大学), 片山歩美(九州大学)
*Hayato ABE(Kyushu University), Mimori OYAMADA(Kyushu University), Tomonori KUME(Kyushu University), Fujio HYODO(Okayama University), Ayumi KATAYAMA(Kyushu University)

近年、ニホンジカ(Cervus nippon)による森林植生の過度な採食が全国的に生じている。九州南部では下層植生の消失した林地で土壌侵食が増大し、樹木根が地上に露出するほど土壌層が剥離している。また近年、この様な林地でブナ(Fagus crenata)の衰退が観察されている。下層植生消失地のブナ衰退は土壌侵食に起因する可能性がある。その可能性を検証するため、本研究では同一林分内で土壌侵食の程度が異なる立地に生育するブナを対象に、侵食程度とブナ個体の生産量、生理機能との関係性を調べた。本研究は九州大学宮崎演習林の三方岳に生育するブナ12個体で実施した。侵食程度として、各ブナの周囲80か所で地上に露出した根の高さを計測し、その平均値(平均露出高,cm)を求めた。生産量として、リタートラップ法から2020年と2021年の葉生産量(g m-2)を求め、イングロースコア法から2021年の細根生産量(g m-2)を推定した。また肥大成長量として、年輪幅の計測から1960–2020年の胸高断面積増加量(BAI,cm2 yr-1)と2020年の相対成長率(% yr-1)を評価した。生理機能として、年輪の炭素安定同位体比から1960–2014年の水利用効率(µmol mol-1)を求めた。葉生産量は平均露出高の高い個体ほど低かった。一方で、細根生産量と平均露出高の関係は有意ではなかった。全個体のBAIの平均値は1960年から2000年までほぼ一定であったが、その後2020年まで漸次減少した。相対成長率は平均露出高が高い個体ほど低かった。水利用効率は、1961–1980年ではBAIと有意な関係がなかったが、2001–2014年ではBAIと有意な負の関係があった。以上から、土壌侵食はブナの葉生産量と肥大成長量を低下させることが示され、その要因として樹木根の露出に伴う水欠乏が示唆された。


日本生態学会