| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-461 (Poster presentation)
近年、食糧需要の増加に伴い、世界中で自然植生が農地や牧地に転換されており、生物多様性の損失と気候変動を促進させる主な要因となっている。
農地、牧地拡大の要因として、世界中で広まる食生活の高カロリー化・肉食化がある。この需要を満たす生産には、単位重量やカロリーあたりにより多くの土地を要する。すなわち、この食事内容の高カロリー化は、人間の健康だけでなく、地球の健康(生物多様性や気候変動)にも悪影響を与える。
農地、牧地拡大の悪影響は広く知られているが、対策が十分になされていない。ここには、近年のグローバル化により盛んになった食糧の貿易が影響している。生産国と消費国の関係が複雑化し、生産国における環境への負荷が見えにくくなっているのである。
このように、農地、牧地拡大の問題に対処するには、”消費国の責任”を明確化する必要がある。そのため、消費者側の、食糧需要やそれに伴う環境負荷(遠隔環境責任)を正しく把握することが、食糧システムの変容に必須の実証データとなると期待される。そこで本研究では、“現在の食事内容”と“地球と人の健康にとって理想とされる食事内容”といった、異なる食糧需要シナリオで土地利用負荷の比較を行う。さらに、両シナリオについて、食糧貿易を介した他国へのフットプリントについて可視化を行う。
具体的には、世界各国の食料生産量・輸出入のデータ(FAOSTAT公開)と世界の作物ごとの収量のデータ(MapSPAM公開)を組み合わせることで、作物ごとに消費国の影響を可視化する。これに基づき、潜在自然植生における炭素蓄積量データと生物多様性フットプリントのデータを用いて、消費国が潜在的に与えている環境負荷(炭素と生物多様性)について評価する。
以上を基に、社会と自然環境の課題解決に資する持続可能な食料システムの構築のために、農業による環境負荷を認識し、削減する取り組みを国際的に行っていくための方策を議論する。