| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-465 (Poster presentation)
集約的農業から持続可能な農業への転換が急務である近年、生態系に潜在する機能(生態系サービス)を最大限に利用することによって作物生産と生物多様性保全の両立を目指す「生態学的集約化」が注目されている。研究蓄積が豊富な大規模農地景観では、農地の一部を利用した自然地復元の効果が多く報告されている。一方、日本の小規模農地景観においてソバを対象とした演者らの研究では、農地周辺に既存する畦畔の花や植生高をソバ花期に維持することで送粉サービスが高まることを明らかにした。しかし、その効果が発現するメカニズムは未解明である。本研究では、畦畔植生の訪花昆虫に対する採餌場所(花資源)および休息場所(物理構造)としての機能に着目し、効果発現のメカニズム解明を目的とした。長野県飯島町のソバ畑において2021年の夏ソバと秋ソバで調査を行った。ソバの播種から収穫まで畦畔での草刈りを控えた維持区と開花直前(1〜2週間前)に草刈りをした草刈り区で、それぞれソバの訪花昆虫個体数と結実率を調査した。その結果、両季節ともに維持区で個体数と結実率が高かった。中でもハナバチやハナアブ、コウチュウが増加していた。次に、畦畔の野生植物に訪花する昆虫(採餌利用)と、夜間に畦畔植生上で休息する昆虫(休息利用)を採集した。これらの採集方法に基づいて、訪花昆虫を「花資源型」(ソバ∩野生植物)、「物理構造型」(ソバ∩夜間の畦畔)、「両資源型」(ソバ∩野生植物∩夜間の畦畔)の3つに分類し、個体数と管理、結実率の関係を解析した。その結果、維持区において夏ソバでは「花資源型」と「両資源型」、秋ソバでは「両資源型」の個体数が多く、結実率は両季節ともに「両資源型」の個体数に伴って増加していた。従って、畦畔植生がもつ花資源と物理構造としての両機能のセットによって、送粉サービスの増加が生じていることが示唆された。