| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-466 (Poster presentation)
モンゴル草原の牧草種2種における地上部の繰り返し切除後の再成長
*HURICHA(鳥取大・連合農学研究科) 吉原佑(三重大・生物資源)
Batdelger Gantsetseg(モンゴル気象水文環境情報研究所) 衣笠利彦(鳥取大・農)
牧畜はモンゴルの基幹産業で、草原の適切な牧畜利用のため、植物の被食応答の理解が必要とされている。そこでモンゴル草原に広く分布するイネ科多年生草本Stipa kryloviiとAgropyron cristatumを栽培し、被食を模した切除処理を繰り返し行い、被食回数の増加にともなう地上部の再成長様式と栄養価の変化を調べた。ポット栽培した植物に3週間ごとに4回の地上部切除処理を行い、葉面積、乾燥重量、窒素量、粗繊維量を測定した。
3週間に1度のクリッピングを3回行った場合、どちらの種でも毎回地上部量はクリッピング前と同程度まで回復したが、その回復メカニズムは種によって異なっていた:A. cristatumではクリッピングの繰り返しにともなう個体成長量(G)の増加がバイオマス地上部分配率の低下で打ち消され、S. kryloviiではどちらの値にも一時的な変化しかみられなかった。種によるGの変化の違いには、比葉面積(SLA)が寄与していた:A. cristatumではSLAの増加が葉面積の増加を通しGを増加させた。一方S. kryloviiではSLAの低下が葉面積を減少させたが、同時に葉窒素量の増加が光合成能力を上昇させ、Gへの影響を相殺していた。クリッピングの繰り返しとともに、どちらの種でも再成長した地上部の窒素量が増加し繊維量が低下した。
以上から、どちらの植物も3週間に1度の被食であれば、牧畜利用できる草量は一定に維持され、かつ栄養価は向上することが示唆された。また被食-再生長の繰り返しにともなって再生長に関わるパラメーターが変動し、その変動に種間差があることが明らかになった。再成長様式の種間差にはSLAの変化の違いが大きく寄与しており、葉の被食耐性戦略の影響が大きいと考えられた。