| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-468  (Poster presentation)

民間緑地における希少種の生息を規定する要因の解明:全国スケールでの分析
Elucidation of factors governing the habitat of rare species in private green spaces: analysis in national scale

*玉利瑞欣(東京大学), 角谷拓(国立環境研究所), 高川晋一(日本自然保護協会), 曽我昌史(東京大学)
*Mizuki TAMARI(Tokyo Univ.), Taku KADOYA(NIES), Shiichi TAKAGAWA(NACS-J), Masashi SOGA(Tokyo Univ.)

近年、生物多様性保全の手段として自然保護区以外の地域(OECMs)が注目されている。実際に、都市緑地を始めとしたOECMsは日本全国に広く存在し、保全に大きく貢献する可能性を秘めている。しかし、その保全効果や活動実態は不明な点が多い。そこで本研究では、日本において大規模アンケート調査を行い、保護区以外の緑地(以降「民間緑地」)における希少生物種(都道府県や国のRL・RDBに記載されている種)の生息状況や、希少種の生息に影響をもたらす環境要因を明らかにすることを目的とした。
アンケート調査は、全国の青少年施設、動植物園水族館、都市公園、その他の公有施設(森林公園、農業公園など)2159箇所を対象に行った。各施設において希少生物の生息状況や緑地の管理状況を聞きとった。解析では一般化線形混合モデルと用い、希少種の生息状況に与える複数の環境要因の影響を定量化した。
調査の結果、今回解析対象とした268箇所の民間緑地のうち、約5割の緑地で希少種の生息が報告された。一方、希少種の保全に向けた活動・行動を行っている緑地は限られていることも分かった。これらの結果は、民間緑地は潜在的に高い生物多様性保全機能を持つものの、それらの種は必ずしも適切な保全活動によって保護されているとは限らないことを示唆している。
解析の結果、緑地周囲の森林率が高い民間緑地ほど希少種が生息しやすいことが分かった。この結果は、自然度が高い地域の民間緑地は、希少種の生息地として重要な役割を担うことを示唆している。また、本研究では、周囲の森林率にかかわらず、緑地内に大きな保全エリアがあり、保全活動を行われている緑地では、希少種の生息確率が高まることも分かった。この結果は、民間緑地が有する生物多様性保全機能は、緑地内の環境を適切に整備・管理することでも十分に高められることを示唆している。これらの結果を踏まえ本講演では、今後の民間緑地で必要な保全管理について議論する。


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