| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-077 (Poster presentation)
これまでの多くの訪花昆虫群集調査は、直接観察・捕獲により行われてきた。捕獲を伴う直接観察では、長時間の調査の難しさ、調査者の経験値によるデータのバラツキ、捕獲による植物・昆虫への影響などの制約がある。一方で、デジタルカメラによるインターバル撮影にはこれらの制約がなく、近年インターバル撮影を用いた研究が増えている。しかし、頻繁に移動する昆虫は写りにくい、撮影対象とできる花数が限られるため訪花の撮影頻度が下がる、種同定が困難などの制約がありうる。本研究では、湿地性植物38種を対象に直接観察とインターバル撮影による訪花昆虫調査を行い、インターバル撮影調査法の有効性を検証した。具体的には,(1)記録された訪花昆虫群集は直接観察の場合と同様か、(2)撮影時の対象花数と昆虫撮影頻度に関係がみられるか、(3)撮影された昆虫についてどの程度、種同定が可能か、を検証した。
2019年4月~11月と2020年4月~10月の日中に島根県飯南町に位置する赤名湿地に生育する植物38種を対象に、それぞれ直接観察(調査時間:4935分、捕獲昆虫:796個体)とインターバル撮影(撮影枚数:64529枚、昆虫撮影枚数:1395枚)による訪花昆虫調査を行った。全体でみると訪花昆虫群集構成はインターバル撮影と直接観察ともにハエ目が優占し、両者間に目構成の割合に有意な差はなかった。また各植物種の主要訪花者は77%の種で一致した。 不一致となった種には、直接観察でハエ媒花とされたものがジェネラリスト媒花に分類されたものなどがあった。撮影対象とされた花の数が少ない植物種ほど訪花昆虫撮影頻度が有意に低かった。また、インターバル撮影では、撮影された訪花昆虫全体の半数で科レベルまで、全体の27%の個体で種レベルまで同定できた。
以上より、インターバル撮影は、直接観察と比べて目レベルではほぼ同様の訪花昆虫群集を記録することができたが、種同定の困難さや花が低密度の場合の撮影頻度の少なさなどの制約があることが示された。