| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-078  (Poster presentation)

枯葉を作り出す、枯葉そっくりな幼虫:蝶類幼虫にみられる擬態モデル創出行動
Old leaf masquerade by butterfly larvae and the model-creation behavior

*小林知里(森林総合研究所)
*Chisato KOBAYASHI(FFPRI)

昆虫の擬態は広くさまざまな分類群でみられる現象であり、有毒種に似るものから苔・地衣類への隠蔽に至るまで、実に見事で多様な世界が広がっている。多くの場合は擬態のモデルは他種あるいは生育環境に存在する背景物というように、「もともとそこにある何かを真似る」ことが一般的である。擬態の進化を考えた場合、すでに存在する物に似る、ということがもっともリーズナブルに思われるが、一部の蝶類では、枯れ葉色の体色をした幼虫が、摂食対象である植物の緑の葉を切るなどして加工することにより、枯れ葉を作り出すという「創出枯葉擬態」行動が見られる。擬態モデルを創出するという点で特徴的なこうした枯れ葉擬態は、どのような進化史をもち、具体的にはどのような行動や加工で成り立っており、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか?
今回は、その疑問に対する第一歩として、コミスジ(タテハチョウ科)およびオオミドリシジミ(シジミチョウ科)の植物加工行動と摂食・静止部位あるいは擬態効果についての個体追跡による観察結果について紹介する。コミスジの場合、①若齢では主な摂食部位・静止部位ともに切った枯れ葉部分であり、その後成長とともに緑の生きた葉へ移行すること、②それに伴い幼虫の体色や枯葉擬態の程度、緑の葉上での目立ちやすさも変化すること、③葉を切る行動は断続的に何度も行われること、などがわかった。一方でオオミドリシジミの場合は、①摂食部位が生葉から前もって傷つけた葉へと次第に移行すること、②葉の傷つけ行動はおそらく成長のある一時期に集中して行い、その後追加されることはないこと、③傷つけた葉の一部でのみ顕著に灰褐色の変色が起こること、などがわかった。これらの結果からそれぞれの種における枯れ葉に似る擬態の適応的意義や進化について、さまざまな角度から議論したい。


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