| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-080 (Poster presentation)
生態系エンジニアとしての霊長類の役割を明らかにするための研究は注目されるようになったものの、「空洞化した森林 (empty forests)」の議論に代表されるように、その多くは熱帯や暖温帯における種子散布に紐づけられる試みに限られている。そこで本研究では、果実食とは別の霊長類の採食が在来植生にもたらす影響を明らかにすることを目的に、特に研究例が少ない冷温帯多雪地に生息するニホンザル(以下サル)を対象に、植物個体レベル・植物群集レベルの2つの観点から評価した。個体レベルの評価として、サルによる春季の葉食と冬季の樹皮・冬芽食がもたらす影響に注目した。ここでは、採食選択性の高い9種の木本植物を対象に、サルの採食を人為的に再現した野外実験により、個体成長と生残率を4年間モニタリングした。群集レベルの評価として、植生への影響がより大きいことが予想された樹皮・冬芽食を対象とし、サルの採食頻度が高まりやすい環境条件の特定と、過去5年間の累積採食圧の相違が、そこに成立する樹種構成に及ぼす影響を評価した。個体レベル評価の結果、春季の葉食、および冬季の樹皮・冬芽食ともに、個体に与える致死的な影響は限定的であった(枯死率は20%以下)。ただし、葉食は被採食個体の成長遅延をもたらしやすかった一方で、樹皮・冬芽食は個体の補償成長を促した樹種もみられた。豪雪期のサルの累積採食圧は、好適な食物資源量とは独立に決定されやすかった。サルによる累積採食圧が高い場所においても、採食が木本植物の多様性やバイオマスの低下はもたらさなかったものの、サルが好む樹種の増加に資する遷移様式の変化が認められた。サルの採食が自身の食物資源にもたらすフィードバック効果は、多量の積雪によってサルの採食圧(すなわち攪乱)が物理的・生理的に抑制されることによって生じやすい可能性が考えられた。