| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-082 (Poster presentation)
これまで動物による種子散布研究では、一種一種系の動植物関係において、【1】種子の散布率、【2】散布された種子と実生の空間分布、【3】実生の生育環境を基に、散布者が植物の適応度に及ぼす影響が評価されてきた。しかし、自然界では、散布者は特定の植物種に対して複数種存在し、散布の過程で散布者間に相互作用が働くことが一般的であると思われる。従って、複数の散布種が関わる系では、これまでに蓄積されてきた散布特性とは異なる新知見が得られるものと期待される。本研究では、オニグルミを対象に、クルミの散布者であるキタリスのみが存在する場合と、同じく散布者であるアカネズミとキタリスの両種が存在する場合で、種子の散布特性[【1】種子の散布率、【2】散布された種子と当年生実生の空間分布(同一コホートの個体間の空間的集中度と各コホートと同種の成木との空間的関係性)、【3】当年生実生の生育環境]が異なるのかを検証した。解析の結果、散布者の組み合わせにより、全ての種子の散布特性は以下の3点で異なっていた。(1)リス単独区ではリスネズミ区に比べ種子の散布率が有意に低く、ほとんどの種子は持ち去られなかった。(2)当年生実生と散布された種子はともに、リスネズミ区ではリス単独区および対照区に比べ、同一コホートの個体間で分散して、各コホートは同種の成木から離れて生育していた。(3)当年生実生は、リス単独区では特定の環境での生育は見受けられなかったが、リスネズミ区では中径木の密度が少ない環境に多く生育していた。以上の結果から、リスとネズミによる種子散布は、クルミの適応度に対して相加的ではなく相乗的な影響を及ぼすことが示唆された。従って、散布者が植物の適応度に及ぼす影響を正しく評価するためには、散布者間の相互作用を考慮する必要がある。