| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-083 (Poster presentation)
植物体サイズや葉長が著しく小型になる植物の矮小進化は高山域を中心に世界中から報告されている。矮小進化には、低温や乾燥ストレス、草食動物の採食圧、生育期間の減少などの様々な要因が影響していると考えられており、各要因の貢献度や一般性、また矮小進化が起こる時間スケールを明らかにすることが植物の矮小進化メカニズムの解明において重要である。本研究はその対象として屋久島高山域の矮小植物群に着目した。年間10000ミリを超える降水量や花崗岩土壌による栄養分の不足が矮小化に影響したとこれまで考えられてきたが、矮小植物群の成立要因や起源は明らかになっていない。屋久島の高山域でもイグサやコバノイシカグマなどのシカの不嗜好種は比較的植物体サイズが大きいことから、矮小植物群の形成には、狭く隔離された屋久島におけるヤクシカからの採食圧が強く影響していると考え、この仮説の検証を行った。まず屋久島の高山域に分布する40分類群と近隣地域の集団もしくは近縁種の植物体サイズと葉長の計測を行い、各分類群の矮小化度合いを算出した。この矮小化度合いを目的変数に、シカの嗜好性や標高差、年間降水量の差などを説明変数とした一般化線形モデルを用いて解析を行った。モデル選択の結果、特にシカの嗜好性が矮小化度合いに強く関連していることが明らかになった。更に屋久島高山集団と近縁集団26ペアを対象にMIG-seq法を用いてゲノムワイドSNPsを取得し、集団遺伝解析によって屋久島集団の隔離年代の推定を行った。その結果、対象種の半数以上は最終氷期中(2万~11万年前)に屋久島に隔離されたことが明らかになった。したがって多くの矮小分類群の系統的起源は比較的新しく、最終氷期に屋久島に定着した後にヤクシカの強い採食圧によって矮小進化した可能性が示唆された。今後は今回の研究では考慮できなかった土壌栄養分の影響なども調べていく予定である。