| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-085 (Poster presentation)
植物の開花から結実に至るプロセスでは、気象や養分条件が関与する生理的な脱落とともに、菌類や種子食昆虫の加害による脱落も起こり、それらが種子生産の年変動にも影響していると考えられる。本研究では、暖温帯二次林内のコナラ6個体について、2014年~2020年の8年間、開花から結実にいたる脱落要因やその量を調べ、コナラの種子生産の年変動にどのような要因が影響を及ぼしているのか明らかにすることを目的とした。
個体における開花量は開花当年と前年の4月の平均気温の差と相関があったが、その年変動は小さく、前年の開花量や成熟種子生産量(加害のない充実種子)による負の影響も見られなかった。これに対し、個体における成熟種子生産量は大きく年変動し、また個体間で同調する傾向が見られた。すなわち、個体間で種子成熟前における脱落の同調が起こっている可能性が示唆された。変動主要因分析を行うと、脱落の年変動は、生理的な要因による脱落とは関係なく、様々な種子食昆虫による加害による脱落と相関性があり、中でもハイイロチョッキリによる吸汁・産卵といった加害が最も影響を及ぼしていた。結実率に影響する気象要因を分析すると、ハイイロチョッキリの羽化がおこる6月の気温が最も影響を及ぼしていた。以上のことから、暖温帯二次林でのコナラの種子生産は、個体内で年変動しそれが個体間で同調するマスティングと同じようなパターンを示していたが、それがハイイロチョッキリという主要な種子食昆虫の加害との相互作用によって引き起こされている可能性が示唆された。