| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-086 (Poster presentation)
本研究では、付着散布植物への訪問頻度(カメラトラップ調査)と訪問あたりの散布体数(野外の散布体数の推定、毛皮の形質の測定、接触あたりの散布体数調査)を組み合わせ、付着散布における量的に有効な種子散布者の推定を行うことを目的とした。石川県林業試験場において、自動撮影カメラの撮影枚数から散布者となるニホンカモシカ、ツキノワグマ、ニホンジカの訪問頻度を求めた(2012~2018年)。2020年秋に植生調査を行い付着散布植物12種の散布体数を計数した。調査地で優占し、付着する仕組みが異なるヒカゲイノコヅチ、ミズヒキ、チヂミザサ、ミズタマソウを対象として、哺乳類3種の毛皮への付着率と残存率を実験室内で測定し、接触あたりの散布体数を推定した。毛皮の形質として、毛の長さ、毛皮の深さ、毛の角度を測定した。以上のデータを組み合わせ、単位面積あたりの散布体数を推定し、哺乳類が通過時に散布する散布体の数を推定した。カメラトラップの撮影頻度はニホンカモシカを1とするとツキノワグマが0.125、ニホンジカが0.066だった。毛皮の形質はすべてニホンカモシカ、ツキノワグマ、ニホンジカの順に大きかったが、毛皮の形質と植物種毎の付着率や残存率に対応関係は見られなかった。散布者の訪問頻度を考慮した散布数はニホンカモシカが66個(94%)、ツキノワグマが3個(4%)、ニホンジカが1個(2%)となり、ニホンカモシカが量的に有効な種子散布者と考えられた。カメラトラップ画像を利用した先行研究では、散布体の82%がニホンカモシカ、12%がツキノワグマ、6%がニホンジカに付着しており、いずれの方法を用いてもニホンカモシカが量的に有効な種子散布者と考えられた。本研究で得られた付着率と残存率のデータ、さらに調査地で異なる散布者の訪問頻度と付着散布植物の散布体数のデータを組み合わせることで、付着散布における量的に有効な種子散布者を広範囲で推定することが可能になったと考えられる。