| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-087 (Poster presentation)
植物の中には、接触刺激に応じて素早い動きを示す種類が存在する(オジギソウ、ハエトリソウなど)。素早い運動には、エネルギー上のコストが伴うため、それを上回る利益が存在すると考えられる。しかし、食虫植物の捕虫葉を除いて、素早い運動の生態学的意義は明らかになっていない。発表者らは、モウセンゴケ属において、花のまわりにピンセットで接触刺激を加えると、花弁が2–10分程度で閉鎖する現象を発見した(Tagawa et al. 2018 Plant Species Biology)。本研究では、この現象が植食者の食害に応答して花弁を閉鎖し、繁殖器官を保護する上で適応的であるという仮説を検証した。野外観察と室内実験から、(1)スペシャリスト植食者であるモウセンゴケトリバの幼虫の食害に応答して、モウセンゴケ属は花弁を閉鎖すること、(2)モウセンゴケトリバの食害に応答した花閉鎖の速度は、通常の花閉鎖と比較して統計学的に有意に大きいこと、(3)花閉鎖によって胚珠の食害率が低下することが明らかとなった。以上の結果から、モウセンゴケ属の素早い花閉鎖運動は、植食者の食害に応答して花を閉鎖し、胚珠の食害を抑制する誘導防御である可能性が示唆された。