| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-092 (Poster presentation)
被子植物の花は,花粉を媒介する生物との関係で多様に進化してきたと考えられている。そのため,色覚を発達させた昆虫類や鳥類,哺乳類の視覚の分光特性との共進化という観点から多くの議論がなされており,見かけの重要性が強調されている。また,花色の評価は,花粉を媒介しないヒトの視覚に基づいて分類・評価されており,ヒトの視覚の分光特性によく対応した花に興味が集中しがちである。一方,風など物理的な過程によって花粉を輸送する植物においても,花の色は緑であるとは限らず,赤や黄色など様々な色を持つことがある。このことは,花の色を構成する色素には、視覚的効果以外の機能や,色覚感度域外の光波長に対する効果によっても選択されてきた可能性を示唆している。花を長期間維持するための炭素や水の供給コストは大きく,花器官の合成に加えて,開花中の花の水蒸気コンダクタンスは大きいため,膨圧を維持するためには継続的な水供給が必要となる。花のエネルギー収支を検討する場合,動物の視覚とは関係しない近赤外域の吸収・反射特性が重要となるが,ほとんど検討されていない。さらに,紫外域の吸収は,花粉や胚珠を保護する上で重要な機能があることが予想される。これらのことは,植物体内で花を付ける位置も花色の選択要素としては重要で,直達日射があたる環境と,葉などの植物体によって被陰される環境では,花色の選択条件が大きく異なってくることも示唆する。そこで,モクレン,ツバキ,サクラ,クロマツ,イネなどの花の放射吸収スペクトルを測定し,可視域の反射と吸収に加えて紫外域,近赤外域も考慮することで,花の光学特性は紫外線保護とエネルギー調節機構を駆動力として進化してきているという理解が可能であることを,実測データを元に議論する。