| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-095 (Poster presentation)
花には送粉者だけでなく植食者や捕食者、さらには寄生者など様々な動物が訪れる。もし訪花者相の網羅的なモニタリングを実施できれば、多様な機能群の節足動物相を効率的に知ることができ、総合的害虫管理や送粉者の保全にも役立つ可能性が高い。しかし訪花者の調査は送粉者のみを対象とすることが多く、網羅的な解明はほとんど行われていない。また微小な分類群の認識は目視では困難であることも障害となっている。近年発展している環境DNA技術を訪花者調査に適用することで、簡便かつ網羅的に訪花者相を解明できる可能性がある。そこで野外の花から環境DNAを回収し、ビデオ動画の目視による節足動物調査との結果の比較を行い、環境DNA技術の訪花者への利用可能性を検証した。
2020年9月、筑波大学実験圃場にて、ニガウリの雌花と雄花を対象に調査を実施した。開花前日のつぼみを袋掛けし、翌早朝に袋を外し、開花中の花のビデオ撮影を行った後、花を回収した。加えてビデオ外の花やつぼみ、袋掛けのままの花も回収し、DNA抽出後、COⅠ領域のアンプリコン解析を実施した。
およそ20目44科49属32種の動物のDNAが同定され、双翅目とアザミウマ目のDNAが動物の総検出配列数の約3/4を占めていた。多くが植食者であったが、捕食、捕食寄生、寄生、さらに腐植食者も含まれていた。フシダニやメイガ、線虫等の害虫、クモや寄生蜂等の益虫も検出されたことは農業的に重要であると考えられる。動画の目視調査では同定不能の微小動物が最も多く、ハラナガツチバチ、トラマルハナバチ、アリ、コハナバチと続いた。しかしトラマルハナバチのDNAはどの花からも検出されず、ハラナガツチバチ、コハナバチ、アリのDNA検出もわずかであった。この理由は不明であるが、プライマーの適合度やDNAの残存率の低さなどの要因が考えられる。
網羅的検出には課題が多く残るものの、目視では識別困難な花上の微小動物に対する環境DNAの有用可能性が明らかになった。