| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-097  (Poster presentation)

送粉者が広げる花の「感染症」の理論モデル
Theoretical model for the pollinator-transmitted floral disease

*伊藤公一(北海道大学)
*Koichi ITO(Hokkaido Univ.)

自ら移動できない植物にとって、花粉を運搬する送粉者は繁殖成功をもたらす重要な存在である。しかし近年、送粉者は花粉だけでなく、植物個体の適応度に悪影響を与えるような微生物、例えば花蜜の質を変える細菌や日和見的に病徴を出す細菌、などをも同時に運んでいることが報告されている。このような送粉者を介して花から花へと広がる、広い意味での「病原菌」の存在は、花形質の進化に大きな影響を与えるかもしれない。例えば、病原菌の存在下では、送粉者の訪花は繁殖成功だけでなく感染リスクをももたらすことを意味するため、過剰な訪花は適応度に悪影響を及ぼすかもしれない。また、花粉は送粉者に渡してしまえば感染しても繁殖成功の損失がないのに対して、種子は花が侵されることによって結実に悪影響が出うるため、オス機能とメス機能の間で感染がもたらすコストに違いがあるかもしれない。ところが、従来の理論研究は、こうした病原菌が植物の繁殖成功や花形質の進化に与える影響については調べられてこなかった。
そこで、本研究ではベクター・ホスト間の疫学理論モデルを活用し、植物個体間での送粉者を介した感染症の広がりを調べる理論モデルを構築した。このモデルを使って、送粉者群集や感染症の持つ特徴が、病原菌の広がりや植物の繁殖成功、さらには耐病性を高められる場合に生じる進化について適応ダイナミクスに基づく解析を行った。
結果、送粉者を介して広がる病原菌の影響は、花の性表現によって大きく変わりうることが明らかとなった。両性花においては耐病性への投資がオス機能とメス機能の同時に利益をもたらすことになるため、中程度の耐病性への投資が進化した。一方、雌雄異花の植物では、同じパラメータ条件下でも雄花と雌花の両方が耐病性へ投資する場合と雌花のみが耐病性に投資する場合の両方が初期値に応じて生じうることを明らかにした。


日本生態学会