| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-236 (Poster presentation)
一回繁殖性から多回繁殖性まで、生物種によって寿命が大きく異なっている。ミヤマハタザオArabidopsis kamchaticaは中部地方の0~3000 mという広い標高帯に分布し、野外の低標高集団は一年草に近い生活史を示すのに対して高標高集団は典型的な多年草である。種内で見られるこの著しい寿命の多型が、異なる環境への適応にかかわっている可能性がある。本研究では、(1)一年草と多年草の間で大きく異なることが一般に知られている繁殖器官/栄養器官比等の資源配分比を寿命の指標とし、標高に沿って遺伝的な寿命の違いがあるかどうかを検証するとともに、(2)繁殖後に死亡するという野外の低標高集団で見られる一年草型の生活史がどんな栽培条件で発現するのかを調べた。
中部地方の標高87~2835 mのミヤマハタザオ9集団に由来する計212個体を栽培した。繁殖開始から2週間後に温度を高温・平温(32・20 ℃)の2条件、水量は渇水・平水・豊水(週・個体あたり60 ml、80 ml、および100 ml以上)の3条件に設定した。繁殖終了後、器官別に乾燥重量を計り、繁殖器官/栄養器官比と地上部/地下部比を求めた。
その結果、一番目に、いずれの温度・水分条件においても、低標高集団ほど繁殖器官への資源配分が多く、低標高集団ほど一年草型の生活史をとるという遺伝的変異があることが示された。また高温と由来標高との間の交互作用が繁殖器官/栄養器官比に影響しており、資源配分に対する表現型可塑性にも由来標高による遺伝的な違いがあると考えられる。
二番目に、繁殖終了後に全てのロゼット葉を枯らす(ロゼット枯れ)個体の割合が低標高集団で高く、特に高温条件で高かった。高温条件下のロゼット枯れ個体は繁殖器官の重量が大きく、そのような環境条件下で葉の資源を繁殖器官に配分することで、短命・高繁殖の生活史が発現すると考えられる。