| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-237  (Poster presentation)

クロノタイプ効果による適応形質の多様化:短日植物における限界日長の局所適応
A chronotype effect on the adaptive trait variation: the local adaptation of critical day-length in a short-day plant

*村中智明(鹿児島大), 工藤洋(京都大学), 伊藤照悟(京都大学), 小山時隆(京都大学)
*Tomoaki MURANAKA(Kagoshima), Hiroshi KUDOH(Kyoto Univ.), Shogo ITO(Kyoto Univ.), Tokitaka OYAMA(Kyoto Univ.)

自然淘汰による適応形質の進化において、淘汰前の表現型の多様性は重要である。しかしながら、自然集団において、いかに表現型多様性が生成されるかは、不明な部分も多い。我々は多様性のソースとして、概日時計の周期多様性に注目した。概日時計は生体内に1日周期のリズムを生成し、様々な生理現象を制御する。概日時計が生成するリズムは定常条件でも持続するが、リズム周期は遺伝的に決まっており、20-28時間の多様性を示す。昼夜条件ではリズムは24時間周期に同期するが、周期の差異は活性化位相(クロノタイプ)に反映され、周期が短いと位相が前進する正の相関を示す。自然集団には、概日時計の周期に種内多様性がみられるが、適応的形質の変異との関係を解析した例は少ない。
光周性花成は概日時計の代表的な出力であり、局所適応のターゲットでもある。水田雑草である短日性の日本産アオウキクサにおいて、限界日長の緯度クラインが報告されている。我々は、アオウキクサを日本各地の水田から72系統を集め、限界日長と概日リズム周期を調べた。限界日長は11.6~14.2時間の多様性を示し、緯度クラインに加えて、湛水時期の異なる水田間での分化もみられた。ジーンガンによる一過的な発光レポータ導入による概日リズム測定により周期を決定した結果、周期と限界日長に負の相関が見られた。RNA-seq解析により同定した花成ホルモン遺伝子について、その発現誘導時刻と限界日長が相関することが明らかとなった。概日リズムの周期変化により、クロノタイプが変化し、花成ホルモン遺伝子の発現位相が変化することが、限界日長の多様化に関与したと考えられる。概日時計の周期は多数の時計遺伝子が参画する遺伝子ネットワークにより決まり、超越分離を示すなど変化しやすい。このような性質が、クロノタイプ変化を通した活性化位相の多様化を促進し、迅速な適応進化につながる可能性がある。


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