| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-238  (Poster presentation)

環境DNA分析で探る琵琶湖陸封アユの生活史型間における遺伝的構造の差異
Differences in the genetic structure between two Ayu groups with different life history in Lake Biwa inferred by environmental DNA analysis

*辻冴月(京都大学), 芝田直樹(環境総合リサーチ), 沢田隼(西日本科学技術研究所), 渡辺勝敏(京都大学)
*Satsuki TSUJI(Kyoto Univ.), Naoki SHIBATA(ER&S Co.,Ltd.), Hayato SAWADA(NIT Co.,Ltd.), Katsutoshi WATANABE(Kyoto Univ.)

 琵琶湖に陸封されたアユには、冬季を琵琶湖で過ごしたのち春に河川を遡上し成長する春遡河群と、春夏を湖内で過ごし秋に産卵のため遡上する秋遡河群が存在する。本研究では、捕獲調査よりも感度や費用対効果が高いとされる環境DNA(eDNA)分析を用いて、琵琶湖陸封アユの生活史型間における遺伝的構造の差異を明らかにすることを目的とした。環境DNA分析を用いることにより、現場では採水を行うだけで河川内に存在する多数の個体に由来するハプロタイプの多様性を網羅的に検出することが可能となる。
 春(3月・4月)と秋(9月)に琵琶湖に流入する計11河川の河口から約1 kmの地点で採水調査を2年間実施し、各試料に含まれるアユのミトコンドリアDNA、D-loop領域のハプロタイプを定量的に検出した。結果、計265のアユのハプロタイプが検出され、各ハプロタイプのコピー数を用いて推定したペアワイズ固定化指数(FST)とハプロタイプ多様性(h)から、各河川における2つの生活史群間に遺伝的差異が存在することが示唆された。また、FST値と放流および緯度との間に負の関係が見出だされた。さらに、湖を東西に分けた場合、各生活史群内における距離による隔離の傾向が認められた。これらのことから、琵琶湖の陸封型アユ集団は、生活史型や地理的距離と関連した遺伝的構造を持つことが示唆された。さらに、本研究は、種多様性の評価だけでなく、大規模な遺伝的構造の調査におけるeDNA分析の有用性を示したとも言える。今後は、琵琶湖の陸封アユ集団における生活史分化の進化・維持機構をさらに詳しく解明するために、ゲノムワイド遺伝解析による遡上時期を決定する生態的・遺伝的要因の推定を進める予定である。


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