| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-240  (Poster presentation)

ヤマアリ亜科の対捕食者戦略におけるトレードオフの検証
Testing trade-offs among antipredator strategies in ants (Formicinae)

河邉健, *吉田智弘, 岩井紀子(東京農工大学)
Ken KAWABE, *Tomohiro YOSHIDA, Noriko IWAI(Tokyo Univ. Agr. Tech.)

生物は、捕食者に対して身を守るために様々な種類の対捕食者戦略を行い、その違いは、現在の生物多様性を生み出した要因の一つである。よって、なぜ対捕食者戦略に違いがあるのか明らかにすることは生物の多様性の理解につながる。対捕食者戦略は、他の代替的な特性との間のトレードオフの関係によって変異があると考えられる。本発表では、性質の異なる対捕食者戦略間のトレードオフと、対捕食者戦略に影響する環境要因について検証した。ヤマアリ亜科が持つ定量評価の可能な化学的防御(ギ酸)を用いて、物理的防御や行動的防御とのトレードオフの関係を調査した。物理的防御としての各種の形態(体長、後脚長比、トゲの有無、警告色の有無、多型の有無)および種内の形態(体長、後脚長)とギ酸量の間のトレードオフを検証した。また、行動的防御として、種内のコロニーの個体数とギ酸量の関係を、トゲアリを用いて評価した。さらに、対捕食者戦略に影響する環境条件として、空間利用に着目し、樹上種と地表種のギ酸量を測定した。調査の結果、アリ種間で、ギ酸量とその他の対捕食者戦略とのトレードオフが明らかになった。物理的防御の多型がギ酸量とトレードオフの関係にあり、仮説が支持された。化学的防御と物理的防御の間にトレードオフが示されたことは、2つの防御が代替的な進化を経たことを支持するものである。環境条件としての空間利用は、樹上性種よりも地表性種のギ酸量が多く、仮説が支持された。しかし、種内では、コロニーが大きいと個体のギ酸量が多くなり、仮説は支持されなかった。これまでに、性質上、同じ対捕食者戦略内の比較が盛んに行われてきた。しかし、本結果から、複数の対捕食者戦略を持つ生物(アリ類)では、種間や種内の階層によって異なる対捕食者戦略間のトレードオフがその量的な多様性に寄与することが明らかになった。


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