| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-245 (Poster presentation)
マスティング(繁殖生産が空間的に同調しながら大きく年変動する現象)の究極要因は受粉効率仮説などの進化的背景から解釈される一方、そのメカニズムは、年をまたいで持ち越された資源がある閾値を超え開花が誘発されるとする資源収支モデルや気象要因で説明されることがある。この資源収支モデルでは、繁殖において重要な戦略である開花投資が資源の余剰分の定数倍であると仮定されている。しかし、樹木の結実投資における最適戦略や進化的戦略を考える上では、開花投資が余剰資源と無関係に行われる場合など柔軟なパターンを考慮し新たな戦略の可能性を探る必要がある。本研究では、非線形性も含め柔軟な開花投資様式を考慮した資源収支モデルが、受粉で個体間相互作用する進化ゲームにおいてどのような投資の最適戦略を取りうるのか探索することを目的とした。初めに、確率変数として気象要因も考慮した従来の資源収支モデルを基に、開花投資を比例定数aに加え、非線形性を決める冪乗指数bと余剰資源に依存しない投資cを与えた関数に置き換えた。結実投資を適応度とし、どのようなパラメーターの組み合わせが最適戦略か探索した。結果として、非線形性にあまり関わらず、一定の投資をしつつ、さらに余剰分に基づいて決まる投資を上乗せする戦略が最適戦略となった。さらに、獲得資源と開花決定基準、受粉効率関数を改めた資源収支モデルを個体ベースモデル化し、余剰分の比例定数aと一定投資cの進化シミュレーションを行った。この解析においては、開花投資が余剰資源に対して頭打ちになる条件で一定投資が無視できる戦略に収束した。一方それ以外の条件では、一定の投資と余剰分で決まる投資をどちらも維持する開花投資戦略に収束した。これらの結果から、資源収支モデルに基づくマスティングのメカニズムとして、資源の余剰分に関わらず投資量がある程度決まるとする新たな戦略の可能性が示唆された。