| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-269  (Poster presentation)

ツキノワグマ地域個体群の境界エリアにおける環境選択と冬眠場所の特性
Habitat selection and den site characteristics in the boundary area of regional populations of Asiatic black bear

*横山真弓, 澤紅乃, 高木俊(兵庫県立大学)
*Mayumi YOKOYAMA, Yukino SAWA, Shun TAKAGI(Univ. of Hyogo)

兵庫県には東中国と近畿北部西側の2つのツキノワグマ地域個体群が分布している。20年ほど前までは両個体群とも個体数が減少し分布域が縮小していたが、保護管理政策を続けた結果、2011年以降、個体数の回復と分布域の拡大が続いている。分布拡大地は、人の生活圏と重複する環境が多く、出没被害と保全の両立がより困難な状況である。出没管理を行うためには、出没行動やその要因を適切に把握し、対策を検討することが必要である。そこで本研究では、2つの個体群の境界領域で錯誤捕獲または学術捕獲されたツキノワグマにGPS首輪を装着し、行動を追跡し行動圏が得られた個体の環境選択について明らかにした。また、冬期に追跡できた個体については、冬眠穴の場所推定を行い現地調査により冬眠穴の特性を明らかにした。
冬期を含む複数の季節を追跡できたのは、オス5頭、メス5頭である。固定カーネル95%(Wayne et al,2004)で行動圏を算出したところ、若いオスでは300㎢を超えるものがいる一方で、10才以上では23㎢程度であった。またメスはすべて狭い行動圏であり、平均15.7㎢程度であった。Manlyの資源選択性指数(Manly et al.,2002)による環境選択の結果、雌雄ともに広葉樹林だけでなく、アカマツ林や植林地を選好した時期などがあった。また、春夏は雌雄とも低標高地帯を利用していること、メスはオスよりも低標高で冬眠していること、植林地において冬眠が認められたことなど人為的環境に近い地域でのツキノワグマの行動特性が明らかとなった。個体により放棄農耕地や果樹園、林縁部における出没行動なども見られた。低標高でまとまった広葉樹林が少ない本地域では、広葉樹だけでなく、植林地やアカマツ―コナラ林も含めて季節に応じて多様な環境を選択していることが確認された。これらの結果から、本地域における保全管理に必要な対策について議論する。


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