| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-271  (Poster presentation)

エージェントベースモデルによるツキノワグマ個体群・生息域の動態シミュレーション 【B】
Simulating population and habitat dynamics of Asiatic black bear by an agent-based model 【B】

*町村尚(大阪大学), 遠藤由己(大阪大学), Xianzhe TANG(South China Agricultural Univ., Osaka Univ.)
*Takashi MACHIMURA(Osaka Univ.), Yuki ENDO(Osaka Univ.), Xianzhe TANG(South China Agricultural Univ., Osaka Univ.)

わが国ではツキノワグマによる人身事故が増加傾向にあり、特に東北地方では生息域の急速な拡大が事故リスクを高めていると疑われる。ツキノワグマの生息域拡大には、食物供給変化、人間の影響変化などの複合的要因があると考えられる。本研究はツキノワグマ生息域拡大の要因分析を目的として、エージェントベースモデルによるツキノワグマ個体群動態の空間明示的シミュレーションをおこなった。
計算対象領域を人身事故が多い秋田県とし、空間解像度を5 kmメッシュ(21×41、陸域553セル)とした。モデルは雌雄、年齢の属性を持つ個体をエージェントとし、1年周期で繁殖、移動、加齢、生存の生活史を再現した。繁殖率、産仔数、生存率はHorino and Miura (2000)を元に堅果類(ブナとナラ)の豊凶別(3×3=9段階)に定式化し、豊凶の経年変化は東北森林管理局の調査データを元にマルコフ過程も用いて生成した。個体は適応度が最大となる周辺セルへ移動可能とし、また齢と性別によって生息セル選択の優先度を決定した。個体の適応度は、HSIモデル(日本生態系協会, 2010)の食物供給指数とセルを共有する個体数で定式化した。シミュレーションは第2回自然環境保全基礎調査(1978)による生息域を初期分布とし、最新の調査(2018年)までの40年間を計算期間とし、100回の試行のアンサンブル平均を求めた。計算条件として、堅果類豊凶を一定とした場合と変動させた場合、ランダムなセルでの狩猟と人間居住域付近での有害獣駆除を想定し、個体数と分布域への影響を比較した。モデルは、C#言語によってプログラミングした。
堅果類の豊凶変動の有無によって平均値として個体数と生息域の差は小さかったが、豊凶変動を加えることで個体数の増減が増幅した。狩猟により生息域は小さくなったが、ランダムな狩猟より有害獣駆除による生息域縮小が顕著であった。


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