| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-273 (Poster presentation)
生息域外保全を目的として、水族館では数多くの海棲動物が飼育されている。それら飼育動物の餌は水族館が所在する国や地域の近海で漁獲された魚類資源が多くを占めるため、その地域に生息する野生動物の餌資源を潜在的に圧迫しうる。国内で繁殖するウミネコとオオセグロカモメは現在その個体数を急速に減少させている。その原因の一つに、餌となるホッケやイカナゴなどの魚類資源の減少があげられている。北海道利尻島近海では国内の特定水族館の餌用としてホッケやイカナゴが漁獲、出荷されている。本研究では、この特定水族館におけるホッケとイカナゴの消費が、当地で繁殖する2種のカモメ類の餌資源をどれほど圧迫しているかを評価した。はじめに、この特定水族館におけるイカナゴとホッケの消費量を飼育動物の種、個体数および代謝量から推定した。続いて、繁殖する2種のカモメ類が利尻島近海で消費するイカナゴとホッケの消費量を個体数、代謝量、食性、およびGPS追跡から得られた採餌場所のデータから推定し、両者を比較した。その結果、水族館におけるイカナゴの年間消費量は、営巣数1.5万にものぼるウミネコが繁殖期を通して消費する量の0.56倍、営巣数300程度のオオセグロカモメが消費する量の28.4倍に相当した。また水族館におけるホッケの年間消費量は、オオセグロカモメが繁殖期に消費する量の13.5倍に相当した。生息域外保全のために水族館で消費される魚類資源の量は、ある特定の水族館においてさえ、数百から数万の海鳥個体が繁殖期に必要とする餌の半量から数十倍もの量に匹敵した。国内には多くの水族館が存在するため、全国の水族館における魚類の消費による海鳥の餌資源への圧迫はかなり大きいことが推察された。