| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-281  (Poster presentation)

立山連峰弥陀ヶ原におけるチョウ類の群集構造
Community structure of butterflies in Midagahara, Tateyama Mountain

*清水大輔, 山崎裕治(富山大学)
*Daisuke SHIMIZU, Yuji YAMAZAKI(Toyama Univ.)

鱗翅目のチョウ類は、その生態的特徴から環境変化に敏感な反応を示すため、環境評価に最適な指標種の一つとされている。立山連峰弥陀ヶ原は、古くから観光開発が行われており、観光客の踏圧によって植生の荒廃や土壌の流出が進行した。そのため、近年では荒廃地の緑化活動や植生調査による環境評価が行われている。しかし、動物相の観点から弥陀ヶ原の環境調査や評価の実施例は少ない。本研究は、弥陀ヶ原において環境指標種であるチョウ類の調査を行い、その群集構造の解明および環境の評価を行う。そこで、弥陀ヶ原の標高約1600mから約2100mにおいて、2019年6月3日から9月15日までの好天時に探索調査を行った。徒歩によって左右および前方10mの範囲で確認したすべてのチョウ類について、その種類と場所(GPS座標)を記録した。そして、弥陀ヶ原を5つの地域に区分し、各地域において確認したチョウ類の成虫を環境階級度ER”や多様度指数H’(Shannon-Weaver関数)などを使用し分析した。調査の結果、チョウ類の成虫を17種延べ584個体確認した。環境階級度ER”は、弥陀ヶ原の各地域における環境の自然度が原始段階であることを示した。また、弥陀ヶ原の各地域における多様度指数H’は、他の山岳地域のそれと比較して低く、特に雪田草原を含む地域で顕著に低かった。後者の地域において、ベニヒカゲErebia niphonicaの個体数は全体の75.8%を占め、突出して高かった。これは、ベニヒカゲの突出した個体数が、弥陀ヶ原におけるチョウ類の低い多様度の一因となっていることを示唆する。以上のことから、現在の弥陀ヶ原の環境は、原始的な自然環境が維持されており、開発による人為的攪乱の影響は小さいと考えられる。しかし、特定の一種が突出する環境は、群集構造の不安定さを示す場合があるため、今後も継続的な環境評価によって、弥陀ヶ原の自然環境を注視して行く必要がある。


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