| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-282 (Poster presentation)
脱炭素社会の実現に向けて、洋上風車の導入が急速に進むと予想されるが、その一方で海鳥への負の影響が懸念されている。しかしながら、現状、洋上風力の環境影響評価は困難であるとされ、今後、精度が不十分なまま海鳥の重要海域に風車建設が進む可能性は否めない。海鳥の重要海域を可視化したセンシティビティマップを整備・活用し、立地選定の段階で高リスク海域を予め避けることが、海鳥への影響低減および環境影響評価の迅速化のために重要となる。本研究では、はじめに、伊豆諸島の利島で繁殖するオオミズナギドリにGPSロガーを装着して飛翔軌跡を取得した。次に、得られた飛翔軌跡に、逆強化学習を適用し、移動経路のルール設計の可視化(以下、報酬マップ)した。推定された報酬値を応答変数、海洋環境要因の表面水温、クロロフィル濃度、水深、陸地からの距離、海流の強さ、および海面高度を説明変数として、ElasticNetモデルを適用し、報酬の規定要因を明らかにした。最後に、統計モデルから予測された報酬マップを用いて、強化学習による経路予測をし、高密度エリアを可視化したマップを作成した。外挿性の検証として、日本海側コロニーである粟島を出発地とした経路予測結果と、粟島個体のGPS追跡データとの比較を行った。
結果として、報酬値には表面水温が強く負の効果を示していた。予測報酬マップに基づく経路予測では、千葉県沿岸部が利島個体の採餌飛行における高密度エリアとして抽出され、予測結果とGPS追跡結果との間には有意な正の相関が認められた(r=0.64)。また、外挿性の検証として、粟島での予測結果とGPS追跡結果の間には有意な正の相関が認められた(r=0.74)。本手法による予測に最低限要するデータは、海洋環境データと経路予測の際に出発地として設定するコロニー位置のみであることから、今後、他の主要コロニーでのセンシティビティマップ整備に向けた活用が期待される。