| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-283 (Poster presentation)
ニホンザル(Macaca fuscata)は、ヒトを除く霊長類の中で最も高緯度に生息しており、青森を北限、屋久島を南限とする。ニホンザルの分布を左右するのは採食行動の柔軟さ(辻、2012)であり、個体数を左右するのは、各地域、各群れの採食戦略である。これまでの採食生態・行動研究は、自然群を対象としたものが多かったが、農作物を利用する獣害群を対象とした研究も近年進みつつある。例えば、冷温帯にすむニホンザル群は7-8月と11-12月に農地利用のピークがあり、夏・冬季の餌資源量の減少に伴いリスクを冒して農地を利用する(江成ら、2005)。そうした採食戦略が国内の他地域の獣害群でも同様なのかどうかを明らかにすることで、ニホンザルの可塑性に迫ることができる。また、人為的な影響もふまえて考察することで、今後の保全管理に資するデータとしたい。
本発表では、2013年から2020年までの、常緑広葉樹林帯(兵庫県丹波篠山市)に生息するニホンザル5群の土地利用を比較し、人里(農地や住宅地を含む)利用の季節性と群間比較を通して、獣害群の土地利用パターンを明らかにする。5つ群れの比較から、全体的にみると、各月の二次林の利用割合は群れによって異なるものの、人里の利用割合はいくつかの群れ間では連動する傾向がみられた。一方、同所的に生息する2群(A・E群)の人里の利用割合は全く異なっていた。
丹波篠山市とその周辺地域では、黒大豆や水稲を中心としながら自家用野菜を栽培する農業形態が基本である。したがって、各群が農作物を利用する月が一致しないという結果は、農地利用の戦略が群れごとに異なることを示唆している。また、同所的に生息するA群とE群の生息エリアの電気柵の設置率(山端・森光、2021)は、A群エリア(6.0%)、E(5.7%)とほぼ同じであり、餌資源となりうる農作物環境にも相違はないと考えられ、群れの社会関係や群れの特性の違いが土地利用に影響を与えていると考えられた。