| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-284  (Poster presentation)

高山帯におけるニホンジカの行動パターン ―高山帯でシカを捕獲できるか?―
Behavioral patterns of Japanese sika deer in the alpine zone -Can we capture deer in the alpine zone?-

*鈴木まほろ(岩手県立博物館)
*Mahoro SUZUKI(Iwate Prefectural Museum)

早池峰山塊(山頂標高1917m)は北上山地の中央に位置する山である。近年、周辺でニホンジカが急増し、2018年までに山頂付近へも出没するようになった。上部草原の一部では裸地化も確認されており、高山生態系および稀少植物への影響が強く危惧されている。
早池峰山の生態系保全のためには、まず周辺におけるシカの行動を知る必要がある。そこで岩手県と岩手県立博物館は2019年~2021年の6月~10月に、標高940~1900mに自動撮影カメラ20台以上を設置して調査を行った。
これらのカメラで撮影された画像からシカの性別・頭数を読み取り、撮影時刻や設置標高等のデータを用いてシカの行動パターンの分析を行った。
山頂周辺(標高1880m以上)に設置した4台と風衝草原の2台を除くカメラで1日あたり0.3~1.3頭のシカが撮影された。標高1300m以下ではメスも多く撮影されたが、それより上ではほとんどの個体がオスであった。
撮影時刻には偏りがあり、平均70%を超える個体が夜間(18時~6時)に撮影され、標高が高い方が夜間の撮影比率が高い傾向にあり、特に草原環境では80%以上の個体が夜間に撮影されていた。この傾向は、カメラと登山道との距離や、人の通行の有無とは関係がなかった。さらに、斜面に設置したカメラではシカの移動方向に時間帯による大きな偏りが見られ、日没後に上部へ向かい、日の出頃に下部へ向かう日周行動を取っていることが示唆された。
早池峰山の生態系保全のために上部でシカの捕獲を行うことも提案されているが、シカが出没するのは主に夜間であることから、上部での捕獲は極めて非効率的である。また日周移動が示唆されることから、下部森林帯において特にオスの捕獲を推進するのが効果的であると結論づけられる。


日本生態学会