| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-286 (Poster presentation)
日本の止水性の水生生物にとって、元々の生息地である氾濫原や後背湿地の多くが消失した現在、ため池は重要な生息地となっている。しかし、農業の近代化に伴うコンクリート護岸化、一方で、管理の衰退、侵略的外来種の侵入により、ため池は危機的状況となっている。その結果、ため池などの水田生態系では、絶滅危惧とされる種も増加している。
2018年の豪雨水害により、各地のため池で決壊が見られたことから、2019年に「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」が、2020年に「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」がそれぞれ施行された。全国20万ほどのため池のうち、7万弱が防災重点ため池に選定され、安全対策が求められているが、廃止の動きも加速化している。一方で、規模が小さく、ため池データベースに登録されていない池も、気づかない間に廃止されるおそれがある。そのため、水生生物にとって重要なため池を選定し、保全することは急務である。
水生昆虫は止水性の代表的な種群であり、トンボでは、その80%がため池に生息するとされており、コウチュウ目、カメムシ目でも、ため池に生息する種は多い。そこで、これらのため池への依存の程度を明らかにすることを目的として、多くの絶滅危惧種が残存し、調査が継続されてきた石川県能登地方における各種の生息環境別の生息地の割合を算出した。その結果、マルコガタノゲンゴロウやルイスツブゲンゴロウ、ヒメミズカマキリやホッケミズムシは、そのほとんどがため池で確認された。また、国内の生息地がほぼ把握されているマルコガタノゲンゴロウでは、残存する生息地の94%がため池であり、その3分の1に侵略的外来種が侵入していた。防災重点ため池への選定、非選定、データベースに非登録がそれぞれ3分の1ほどであり、今後の維持管理が懸念された。このような、ため池を主要な生息地とする種に着目することは、重要なため池を選定し、保全するための指標として有用と考えられる。