| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-288 (Poster presentation)
長野県山ノ内町志賀高原ではスキー場跡地を森林に再生する目的で歌舞伎俳優の市川海老蔵さん、阿部守一長野県知事、山之内役場職員らとともに全国から集まったボランティアの方々の手で植樹活動を2015年から行っている。植栽の方法は故宮脇昭博士が提唱されたいわゆる宮脇方式で、その土地・立地を考慮した潜在自然植生の構成樹種群のポット苗を用いて、密植・混植している。植栽地は植物社会学的にはブナクラス域から森林限界であるコケモモートウヒクラス域にわたる高海抜地に当たる。
本報告では植栽が開始された2015年の翌年から植栽された樹木の生長挙動を調べるために、ユネスコスクールの中野西高校の生徒たちが中心となってモニタリング調査を行ってきた。亜高山帯における本方式の植生回復は世界的に見ても稀であり、貴重な科学的資料となるため、初期生長データの解析を行い、今後の植栽活動への知見蓄積することを目的とした。
植栽に用いられた樹種は長野県産のトウヒ、ウラジロモミ、ミズナラ、ダケカンバ、コメツガ、ナナカマド、ブナなど20種以上である。これらの樹種を立地環境を考慮して配分している。植栽地は大きく分けて三箇所あり、いずれもスキー場跡地のゲレンデを耕起し、ポット苗を植栽している。植栽後には苗の周りには、土の流失や乾燥を防ぐためのわらを敷いている。
樹木の生長解析には体積指数を、また、物質分配には樹木形状比を用いた。解析の結果、標高経度と樹種による生長挙動の相関が見られ、植生タイプと樹木生長との関係性が示唆された。また、同一植栽地においても土壌環境によって林分及び樹種による生長挙動の差異が認められた。さらには、樹種による物質生産の生長分配様式に特徴がみられ、まだ、生育初期段階ではあるが個体群特有の形態がある可能性が明らかになった。